気になる数字をチェック! 第9回 『37,000,000,000,000(37兆)個』
私たちの体は膨大な数の細胞からできています。人体の細胞数はおよそ60兆個であると学んだ人も多いかもしれません。しかしその根拠は曖昧なもので、実は信頼に足る数字ではありませんでした。そんな中ついに、2013年11月に発表されたEva Bianconiらの論文において、人体の細胞数はおよそ37兆個であるという試算がなされました。仮に人体をバラバラにして、顕微鏡を覗きながら細胞を一つ一つ数えていくとしましょう。1秒に3個のペースで、不眠不休で細胞を数える場合、37兆個数え終わるのに40万年ほどかかる計算です。
それほど膨大な数の細胞でできている人体ですが、はじまりは一つの受精卵です。この受精卵が分裂を繰り返し、37兆個にまで増殖するのです。細胞が分裂して1個→2個→4個→…と増えていくとすると、46回分裂すれば37兆個以上になります。細胞数の割に意外と少ない回数かもしれませんが、実は細胞が無秩序に46回分裂を繰り返すだけでは人体はできあがりません。
まず人体を作る細胞には、筋肉の細胞や神経の細胞など、さまざまな種類があります。その数は270種類にもなるといわれ、これらはすべて、見た目も働きも異なります。
なぜ一つの受精卵から、270種類もの異なる細胞が生まれるのでしょう。実は細胞が増殖して人体を作っていくためには、分裂を繰り返すだけでなく、それぞれが機能を持つように変化しなければなりません。これを「分化」と言います。「分化」によって様々な種類の細胞がつくられ、それぞれが大切な役割を果たしているのです。どの細胞がどの細胞に「分化」するか、それらは複雑なメカニズムにより制御されています。
また、細胞にも寿命があります。たとえば、胃腸の表面を覆う消化管上皮細胞は24時間で死んでしまいます。死んでしまった分の細胞は、また新たに分裂して生まれた細胞によって補われます。このように、死んでしまった細胞と新しく生まれた細胞が入れ替わっていくことを「代謝」と言います。「代謝」によって、体全体としての健康が維持されているのです。
細胞が増殖していく過程で、「分化」によってそれぞれ別の役割を獲得していく。そして寿命を迎えた細胞が死んでも新しい細胞で補う「代謝」によって、人体全体としての健康が維持されている。その様子はまるで、様々な人々に支えられている人間社会のようです。70億人もの人が作り上げる人間社会でさえ健全に維持するのが大変なのに、その5000倍もの数の細胞が協同して人体を維持しているというのは、驚くべきことです。
(田中泰生・2014年度北海道大学CoSTEP本科生)