気になる数字をチェック! 第12回 『秒速7.9Km』
ボールを思いきり速く投げたら、地球を一周してもとの場所に戻ってきて、自分の頭を撃ち抜くんじゃないか……そんな妄想を、子供のころにしたことがありませんか? アニメの世界でもよくあるシーンですが、現実世界ではボールは地面に落ちてしまいます。これは重力が存在するからです。
しかし重力に負けずに、地球の周りを回り続けているものがあります。天気予報やGPS、通信などさまざまな場面で私たちの生活を支えている存在、人工衛星です。なぜ人工衛星は、ボールと違って落下することなく地球を周回できるのでしょうか。
その答えは、物体を投げた時の速度にあります。ある速度で物体を投げると、その物体は地球のまわりを回り続けるのです。さらに、回ることで遠心力がかかり、それが重力とつりあうために、物体は落下しません。この地表上における周回速度のことを「第一宇宙速度」といいます。
では、いったいどのくらいの速度で投げれば、ボールが落ちずに回り続けられるのでしょうか。第一宇宙速度は、重力と遠心力を考えることで求めることができます。まず、重力と遠心力は次の式で表すことができます。
重力(式(1))と遠心力(式(2))が等しくなる状態を考えると、第一宇宙速度を求めることができます。(1)と(2)の式から計算すると、第一宇宙速度は[重力定数:G][地球の重さ:M][地球の半径:R]に依存していることがわかります(式(3))。
詳細な計算は省略しますが、地球の重さを5.972 × 10の24乗 kg、地球の半径を6378kmとすると、第一宇宙速度はおおよそ秒速7.9kmとなります。
これは、一見速く思える銃弾(秒速1km以下)の約8倍であり、周囲4万kmといわれる地球を約84分で一周できる速さなのです。実際の人工衛星の打ち上げでは、いきなり秒速7.9kmもの速度を出しているわけではなく、徐々に加速していくことで周回軌道を維持する速さにたどり着きます。なお、計算式を見て気づいた方もいるかと思いますが、実は地球を周回するための速度は衛星の高度によって決まり、例えば上空約3万6千kmの位置で地球の周りを回り続ける静止衛星の場合は、秒速約3.1kmとなります。
さて、ボールを投げて地球一周させるには、かなりの速度が必要だとわかりました。しかし、地上でボールを周回させるには空気抵抗の影響がかなり大きくなるので、現実にはボールを投げるときに、地球一周して頭を撃ち抜くなんて心配はしなくていいのです。
(佐藤はるか・2014年度北海道大学CoSTEP本科生)