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注目!若手Scientist 4 北海道大学大学院医学研究科神経病態学講座 特任助教 古賀 農人氏

Human 2016年3月14日

『注目!若手Scientist』
第4回は、医学研究科で、精神医学分野に在籍されている古賀農人医学博士。

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古賀先生は、大学院修士課程で分子育種学を専攻、植物の遺伝子操作技術や遺伝子情報の解明などを研究されていた。その後医学の道に転じ精神疾患に関連する遺伝子の研究で博士号を取得。米国ジョンズホプキンス大学では4年半、精神疾患と脳の酸化ストレスとの関係など、病気に関する分子的メカニズムを研究され、2014年より現在の職に就かれている。
臨床医が多い医学研究科で、農学出身といった異色の経歴を持つ古賀先生は、食と神経疾患の関わりについての研究など他の研究者が対象としない研究にも取り組んでいる。
本日は、精神疾患と脳の酸化ストレスの関係の解明や、日本食と健康の関係など幅広くお話を伺った。

脳と酸化ストレス

「酸化ストレス」という言葉は最近よくお聞きになる言葉だと思う。ヒトは酸素でエネルギーを創るが、一方で酸化の要因となり「酸化ストレス」が発生する。発生させたくなければ、呼吸をしなければいいのだが、それは不可能だ。
「酸化ストレス」は脳に異常をきたし、精神疾患に影響すると言われている。
 脳の重さは体重の2%程度だが、脳の酸素消費量は、全体の20%になる。脳には、それだけのエネルギーが必要で、酸化のペースも早い。
脳には、自身の酸化ストレスを消す働きもあるが、何かの影響でそれが機能しなくなると、脳に過剰な「酸化ストレス」がかかり、神経細胞が少しずつダメージをうけ、神経疾患や精神疾患をひきおこすのである。
しかしながら、「酸化ストレス」が上がると、どこの細胞がどんな影響を受けるのかなど、「酸化ストレス」から精神疾患に至る具体的なメカニズムはあまり明らかになってはいない。これが明らかになれば、疾患を食い止める分子の解明、更に治療薬の開発に行きつくのではないか。
 古賀先生は、そのメカニズムを解明し治療や予防にいかしたいという思いから酸化ストレスに着目した。

・脳とストレスの関係
現代人は、社会人では仕事、学生では学業と常にストレスと闘い日々生活している。こういった精神的なストレスが長く続くと、酸化ストレスが高まり、最終的には神経の破壊につながり、これは食品が朽ちていく酸化と同じような現象で最終的には脳の病気につながってゆくと考えられている。
ただ、外界からのストレスが,酸化ストレスにどうつながるかについて、細かくは解っていない。
古賀先生は、精神疾患を引き起こす要因となるものやその因果関係について解明したいと研究を続けている。

ストレスが続くと病気になりやすいというのは理解できるところだが、そのメカニズムが解らないので、どう対処して良いかがはっきりしていない。運動が良いといわれ、実際ストレス低減に役立つことが実証されているものの、体の中でどういったメカニズムになっているのかが解っていない。
脳の機能についても、まだ解っていないことが多く、研究者はこういった「状況証拠」を頼りに、要因と思われる物の因果関係、メカニズムの解明に取り組んでいる。

そこで、先生が仮説として考えているのは、脳に過剰な酸化ストレスが蓄積すると、それが引き金となって細胞死や異常な炎症などが起こり神経破壊に至るのではないかということだ。
それを調べるために、マウスに一定のストレスを与え、ストレスフリーのマウスと比べ血液中の特定の分子を調べることで、臨床の現場で活用できるようなバイオマーカーを見つけ出し、新薬の開発にもつなげようと考えており、酸化ストレスレベルの測定とともに、神経新生や神経保護の仕組みについて分析をしている。

脳の神経細胞は増えない、ダメージを受けた脳機能は再生しないと言われていたが、最近、実際に神経新生や神経保護が起こることが解ってきている。アルツハイマー型の認知障害などの病気では神経新生のレベルが落ちてきてくることからも実に重要な機能である。この神経細胞を破壊したり神経新生に悪影響を与えたりしているのが、酸化ストレスであると考えられている。
このように酸化ストレスは、脳の健康な状態に数々の悪影響を与えている。そこで、天然あるいは加工食品を定期的に摂取することにより酸化ストレスレベルを下げて、脳機能向上や効果がみられないだろうか? 古賀先生は、この検証に今取り組んでいる。

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神経を新生させることができれば、アルツハイマー病などの治療や予防の可能性がある。
また、酸化ストレスが神経新生の阻害や神経の細胞死を招くのであれば、抗酸化作用をもつ天然物素材をみつけることにより、神経新生や酸化ストレスをおさえ神経保護につながる食品を発見できる可能性もある。

・日本食を食べ脳の健康を守る。
古賀先生は、元々ご出身が農学部なこともあり、研究のベースは「食」。
酸化ストレスをキーワードに、病気と食とを絡めながらの研究も進めている。
そんな取組みの一つとして、どのようなものを食べているのかと健康の相関関係を、統計データを使って調べている。うれしいことに、食べることによって脳機能が向上するという研究もあるとか。様々な日本食の素材の中でも味噌がとても良いとのこと。特にご飯と味噌汁のセットが、かなり健康状況との相関関係が良いと感じているとのこと。もちろん薬ではないので、極端な効果を期待するものではなく、良い食生活を継続的に維持していくことで健康の維持や向上につながるということらしい。

今回お伺いした内容は、近々学会で発表されるとのこと。

とても気さくで、熱心にアメリカ留学時代のことなど、幅広い内容を語っていただきました。(すべて載せられず残念です)
ご協力ありがとうございました。